LIOJ 35th Anniversary
「LIOJの現在と未来に向けて」
LIOJオフィスマネージャー 増田和美

 「英語を使う仕事がしたい。」という思いは、就職してからもいつも心の中に持ち続けていました。私がLIOJへ転職した93年は、自分にとってその願いがかなえられた年であり、またLIOJにとっても節目の年であったと、今振り返ることが出来ます。私は93年の7月にLIOJ事務局の一員となりました。当初は小倉さんが家庭に入るための欠員補充で、担当は経理でしたが、それまで経理の経験は全く無かったにもかかわらず、採用までに至り、丁寧に引き継ぎをして頂いたお陰で、興味をもって仕事に取り組むことが出来ました。

 当時LIOJの専任講師は18人ほどで、校長のドン・メイビン氏を筆頭にBCP(企業人向け合宿講座)担当、コミュニティー(通学制)コース担当、ティームティーチング担当とに分かれていました。事務局は私を入れて6名で運営していて、ある程度の余力があったため、プログラムを把握する事を目的に、BCPの開講初日には企業から派遣されて来た受講生に混じって、クラスのオブザーブをさせてもらいました。この日の事は今でもはっきりと記憶していますが、最初のクラスで、ドンにparaphraseのテクニックを教わり、一気に授業にのめり込んで行きました。事務局からのオブザーバーとしては、多少発言が多すぎたかも知れませんが、ice breakingという意味での役割は果たせたかもしれません。英語の得手不得手に関係なく、業務上必要に迫られて集まった受講生達の緊張を解きほぐす、ドンの話術に感動した事を覚えています。私自身それ以前にLIOJの受講生として2年ほどコミュニティーコースに通った事がありましたし、当時私が受講したコースは毎週違う講師が授業を行っていて、時にはBCPの講師にも教わった事があったので、ある程度LIOJのスタイルには慣れているつもりでしたが、子供の頃から「英語を習うならアジアセンターで」と聞かされてきた事の意味が、この時わかったような気がすると同時に、この教育機関で働ける事を誇らしく思いました。

 些細な事では毎日新たな発見がありました。事務局のメンバーは皆それぞれ担当をかかえており、非常に忙しい事もあったのですが、どのような状況にあっても、教師が事務局に入って来て話を始めれば、それが仕事に全く関係のない話題であったとしても、ペンを置き、親身になって話を聞いてあげている姿をよくみかけました。それまで、仕事に集中している相手には話し掛けないという、日本の一般企業では当たりまえの常識の中で生活して来た私にとっては、驚きではありましたが、職場とは別に自分自身の属す場所を持っている日本人とは違い、外国人である彼らに対しては常にコミュニケーションをはかり、生活面でも困った事があれば面倒を見、精神的にも気づかってあげる事が必要であるという事に気付くのにそう時間はかかりませんでした。全ては常識という枠だけにあてはまらない・・・・異文化理解の初歩の初歩といったところでしょうか。このように毎日、英語が飛び交う刺激的な環境に身を置き、とまどいながらも、充実した日々を過ごしておりました。

 入社して2ヶ月後の93年9月、93年度のコースを全て完了したら、BCPコースを閉校するという発表があり、教務側も事務局も大幅な人員削減をする事になりました。94年以降はコミュニティーコースに主軸を置く事になり、校長もドンからBCPの講師であったたケン・フジオカ氏へ引き継がれました。事務局は大野さん、小倉さん、私が残り、94年5月からはコミュニティーコースを小倉さんから引き継ぐために水上さんが新たに加わりました。

 アジアセンターという施設がありながら、合宿コースの花形として常に時代をリードし、質の高い内容を提供し評価を得て来たBCPコースが無くなるのは、非常に残念ではありました。このまま、これまで培って来たノウハウを眠らせてしまうのは惜しいという我々の思いと、企業からの要望も重なり、また、94年度からコミュニティー担当としてLIOJに残ったBCP経験者がケンも含め数名残っていたこともあり、95年から2週間コースとして年2〜3回ではありますが、新たに開始しこのコースは現在に至っています。

 この他に93年度の小田原城内高校をきっかけに、高校生短期合宿講座も徐々に参加校を増やし、LIOJの特色を生かしたコースとして定着して来ました。公立校では、東京都立深川高校、八王子高陵高校、小平高校、神奈川県立白山高校、五領ヶ台高校、有馬高校、私立校では東京女学館、横浜隼人高校など、これまで実施して参りました。この他、2001年からは品川にある青稜中学・高等学校の、八ヶ岳にある同校の施設を利用しての合宿コースも行っています。2003年度から実施する新設校からの依頼も頂いており、他校との競合はあるにしても、内容を評価してLIOJを選択しているとの声を実施校の先生方からは頂いています。

 97年2月には大野さんが退職され、私がオフィスマネージャーの任を引き継ぎました。この年はちょうど英語教育者のためのサマーワークショップが30周年を迎える年で、記念になる行事を行いたいという事で、ワークショップの開講前日に「アジアと日本の英語教育について」というテーマでシンポジウムを行いました。第一部では産能大学教授の小林薫先生に「The Need for More Communicative English」というタイトルで基調講演をして頂き、第二部で中国、韓国、ラオス、タイ、ベトナムなど、アジアの教育者を集めてのパネル・ディスカッションを行い、120名以上の方が聴講されました。この年は他に、「Perspectives on Secondary School EFL Education」という記念誌の発行も行っています。サマーワークショップは今年で35回目を迎えますが、10回、20回、30回と繰返し参加して下さる先生方が多数いらっしゃる事は驚きであり、大変ありがたい事だと感じています。そうした方々の期待を裏切ることの無いよう、高い水準のプログラムを提供しつづける事が責務であると受け止めております。

 現在LIOJのメインプログラムであるコミュニティーコースは、受講生のニーズに対応すべく、コースに多様性を持たせながら今日に至っています。アメリカ英語やイギリス英語といった枠組みにこだわる事なく、世界各国から教師を招聘しており、現在は、アメリカ、スコットランド、アイルランド、ハンガリー、韓国出身の教師が在籍しています。英語を国際的に通用する言語としてとらえる視点を育むと共に、幅広い異文化体験が可能な環境を提供しつづけています。レギュラーコースだけでなく、教師の出身国の文化をとりあげたレクチャーや、内容を特定のテーマに絞り込んだ短期プログラムなど、地元の方々が気軽に足を運び、学べるコースも行って参りました。

 この他、94年から2000年まで実施した松田町の町立中学校におけるティームティーチングプログラム、またその基礎となった小田原市とのプログラムでの経験を応用し、2001年からは箱根町の5つの町立小学校においてティームティーチングプログラムを開始し、今年度で2年目を迎えています。2002年度から、小学校での総合的学習が開始されるのに対応してのリクエストでしたが、箱根という世界的に有名な観光地という土地柄、外国からの観光客も多く、かの土地ならではのユニークなプログラム作りが出来るのではないかと期待されています。初年度には宮城野小学校にて研究授業としてもとりあげられました。将来的には限られた地域にとどまらず、全国的にある程度の統一基準を持った構造的プログラムを開発していく事が不可欠だと強く感じています。

 小学校での国際理解教育導入もその一因ではありますが、英会話学習への関心は以前にも増して確実に高まりを見せています。英語が好きな人、得意な人が興味を持って学んだり、仕事での必要性に迫られてといった、限られた人たちが取り組む特別な存在であった時代は終わり、現在ではインターネットなどの通信網の発達により、誰もが身近で、日常生活の中においても必要不可欠な言語としての認識を持ちはじめています。人によってそれを必要とする理由は様々であり、必要到達レベルも違いますが、その中で英会話学校はただ話せるようにさえしてくれれば良いと考える人が多いのも事実です。しかし、単に日本語を英語に置き換える事が出来たとして、それで言葉を習得したと言えるわけではありません。その言葉の持つ文化的なバックグラウンドやそれを母国語とする人たちの習慣的な物のとらえ方などをふまえて話が出来るようにならなければ、相互理解のツールとして他国の言葉を習得することは不可能だと思います。そういった視点からも、今までLIOJは他と一線を画す特別な存在でありましたし、また今後もそうありつづけねばならないと考えております。

 小学校の総合学習の一環としての国際理解教育は、まだ開始されて間もなく、いずれの地方自治体においても手探りの状態が続いているようです。今後、箱根での経験を実績としてLIOJが示してしていく事が目下の課題だと考えます。その結果、将来グローバルな舞台でしっかりとした意思表示をできる人材を育てる一助となれればと思います。

 通学コース、合宿研修に関しては、アジアセンターODAWARAという施設を使用出来る事は、LIOJの利点であり強みでもあります。建物の構造をよく知った上でプログラムを企画する事ができる他、可能な限りこちらのニーズに対応していただけるので、プログラムの内容以外でも、受講生、参加者の施設に対する満足度は常に高いと思います。

 こうした恵まれた環境という後ろ楯を得、また、これまでLIOJに関わってこられた多くの先輩達の努力が実を結び、実績となって今日のLIOJを築いている事は明らかです。そうした皆様に敬意を表し感謝すると共に、今後も時代の変化と共に新たな可能性を追求し、その道のりをさらに長く、広くしていけるよう、前進していきたいと思っております。


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